編集人:新井高子Webエッセイ


2月のエッセイ

  • ものは試しの米粉パン ――粉のお話(16)

新井高子

喰わず嫌いともちょっと違うのです。嫌いというほどの強烈さはなく、なんとなしの第一印象で「わたしはいいや…」と腰が引けてしまい、そのまま手を伸ばさずに時を経てしまったものが、これまでもいくつかありました。例えば、マカロン。最初のブームが東京にやって来たとき、その大騒ぎをさすがにばかばかしく感じ、わざと素通りしておりました。それが、ひょんなことで出会い、「アレ、いける。この微妙なフレバーと口どけの軽やかさは、たしかに「いま」なお菓子だな」と思い直して…。
 米粉パンも、「小麦にアレルギーがあるわけじゃないし、わたしはいいや…」と。うちの「ロボさん」(=ホームベーカリー)には、米粉パンを作る機能も付いているのですが、長らく試したことがありませんでした。
 それが、和のおかずにもぴったりのモッチリしたパン、という触れ込みに惹かれ、米粉に小麦たんぱくと麦芽糖がブレンドされた、パン用の米粉を、アマゾンで注文したのは年末のこと。お正月の足音も聞こえ始め、お餅が食べたくなっていたけれど、それにはちょっと早すぎる…、そんな宙ぶらりんなモチモチ恋しさが、背中を押した理由だったかしれません。

桜えび入りの米粉パン

よく見ると、えびのカケラがちらほら

焼いている時、小麦と同じように香ばしい匂いがします。ロボさんから取り出すと、ふつうのより高さは低めだけれど、ちゃんとパンの形をしています。切ってみると、白いパン生地から米の香りがほんのり…。「なに、これ?」って感じですよ。齧れば、たしかにモッチリ。いいえ、ネバネバの、「ネバ」と「ネバ」の間に、小さな空洞、すなわち透き間が、数かぎりなーく入ってて、お米の粘り気をふんわり脱臼させている…。お餅に、こまかーくスが入ることで、いつしかパンに化けちゃった…。噛みしめると、口の中にお米の味が広がります。あとを引きます。「へー、面白いもん作ったなあ。アンパン以来の日本人の発明かも!」と、素直に関心してしまいました。ここまで米で工夫しようとするネチッコさ、ほかの民族にはないよね?、きっと。
 ただ、これはプレーンより、ゴマなどの具入りにする方が美味しく感じます。小麦粉のように種類を選べるわけではないので、粉じたいを味わう発想より、風味のある具を混ぜた方が楽しめそうです。米粉と小麦粉をブレンドして作る手もあります。
 どう表現したらいいのかな? 「パン」と「お餅」と「ふりかけご飯」を3点にしたトライアングルを、頭に思い描いてみてください。その真ん中に、チョコンと座っているのが、「米粉パン」(うーむ、むしろ、「チョーふわふわな、おせんべい」って言っちゃう方がはやいかな?) わたしが持ってるホームべーカリーの料理本には、桜えび、ゆず、ちりめんじゃこ、青のり…、そんなふりかけとかおむすびに使う品々が、お薦めの具材になってます。

ユズ入りの米粉パン

ユズがいるけど、わかるかな?

持ち寄りパーティーのときとか、けっこう活躍してくれるかも。和のおかずにも洋のおかずにも適当にあいづちを打ちながら、「えっ、えび入りのパン? お米の粉で作ったの?」、なんて話のタネにもなってくれそう…。ロボさんにお願いすればカンタンに作れちゃうのも、無精なわたしには、大変ありがたいことです。
 先入観はポンと捨て、ものは試してみるもんだなあ、と思った米粉パンでありました。