編集人:新井高子Webエッセイ


6月のエッセイ


  • 千夜一夜ブックス・キャラヴァン(2)
    「ありのままで」は いられない!『カラスのカアすけと なかまたち』

前田 君江

「千夜一夜ブックス・キャラヴァン(1)でご紹介した『あかいはねのふくろう』が先日、復刊ドットコムより出版されました。翻訳は、絵本作家で「ボローニャ国際絵本原画展」の審査員なども務められた広松由希子さん。前田は、編集協力者として、出版計画にちょっぴりお邪魔をしました。皆様から寄せられた素敵な感想や温かいメッセージ、本当にありがとうございました!



●「カラスのカアすけ」シリーズ

「ねえ、ぼく・・・きみたちそっくりになれるかな?」
(『カラスのカアすけ、あおいとり?』)

 さて、今回は、私が最近夢中になっている、トルコの絵本、カラスたちのおはなしシリーズをご紹介します。このシリーズは全部で6冊あるのですが、どれも、16ページのペーパーバック×赤ちゃん絵本の大きさという かわいらしいサイズ。主人公は、カラスのちびっこたち。登場するのは、彼らのまわりでくらす、スズメのぼうやや、《ケヤキじいさん》、ステキな「あおはねたち」、そして、美声のライバルうぐいすたちです。
 まず目を惹くのが、この本に出てくるカラスたちのころんと丸いからだ・・・どうやって描かれていると思います? 実は、指でぺたんと押したハンコなんです。ほら、よく見ると指紋がうつっているでしょう? そこに、クチバシとお目め、足を描き加えると、カラスの出来上がり。


 このシリーズのうち、『カラスのカアすけ、あおいとり?!』と『カラスのシロちゃん』、そして、『おしゃれなチョコちゃん』の3作に共通するテーマといえば、去年の流行語大賞にもなった「ありのままで」・・かな?でも、なかなか、「ありのまま」ではいられないカラスたち!!


 『カラスのカアすけ、あおいとり?』では、主人公のカアすけは、ご近所のステキな「あおはね」たちにあこがれます。あおはねさんたちといっしょにいたい、遊びたい、いっしょに暮らしたい、そうだ、ぼくも青い羽になればいいんだ、カンタン、カンタン!
 あたまから羽のさきまで青ペンキをぬりたくって大変身したカアすけ。くちばしも黄色にぬって、あたまのてっぺんには、毛が3本。いや、4本!



「ぼく、どうすればいいの?!」
(『カラスのカアすけ、あおいとり?』)

          あおはねさんたち、あたらしいぼくを見て、なんていうかな?
         『わお、サイコーだよ、ぼくたちにそっくりじゃないか?!』って いってくれるかな?

     ところが、ところが! やさしかった あおはねたちは、言いました。

          おまえなんか、カアすけと ぜんぜんちがうじゃないか!
          カアすけは、くろいはねに あかいくちばしの、すてきなともだちさ。

     カアすけは、がっかり。そして、ションボリ。

          ぼく、どうすれば いいの?


 さらに、同シリーズの『カラスたちののどじまん』では、カラス村でひらかれた歌声コンテストの熱狂ぶりと審査員になった音楽教授たちが引き起こす騒動がコミカルに描かれ、『月はどこへ行ったの?』では、姿を隠してしまった月を、森を越え山を越えてはるばる探しに出かける鳥たちの姿が描かれます。

『月はどこへ行ったの?』 

『カラスたちののどじまん』


『おしゃれなチョコちゃん』

「ほら、ロリーそっくりのくちばしになったでしょ?」
ボンボンとアキは、うらやましくてたまりません。
(『おしゃれなチョコちゃん』)

 『おしゃれなチョコちゃん』では、チョコちゃんとそのお仲間は、ロック歌手にあこがれて、ビジュアル系よろしく、ロングヘアを逆立ててキメています。  スーパー・スター、《ブラック・ロリポップ》のくるんとカールしたくちばしにあこがれて、ついには、名医《ナンデモせんせい》の整形手術を受けるチョコちゃん。手術はみごと成功。でも、このステキなくちばし、なんと、ごはんが食べられないんです!お水をストローで飲むだけのかわいそうなチョコちゃん。だけど、さすがは《ナンデモせんせい》です。実は・・・・


『カラスのシロちゃん』

「そう、しろいはねをしてたって、
わたしのかわいいこどもだもの。」
(『カラスのシロちゃん』)

 『カラスのシロちゃん』は、タイトルの通り、真っ白な羽で生まれてきたカラスの赤ちゃんのおはなし。カラスのだんなさんとカラスおくさんは、おどろくやら、なげきかなしむやら。樹齢ウン百年の《ケヤキ》じいさんが、二人の悩みと迷いをときぼぐしてくれます。

* * *


 愛すべきカラスちゃんたちを描いているのは、レザー・ヘンマティーラードReza Hemmatirad。イラン出身でトルコ在住のアーティストです。宝飾デザインからカリグラフィーまで手がける幅広いアート活動に加え、近年ではトルコの人気映画のアートディレクターを務めていることでも知られます。どちらかというゴージャスな作風の彼が、指でペタンのカラスちゃんたちを描いたわけを聞いてみたいな。 作者のメリケ・ギュンユズMelike Günyüzは、セディル出版の編集者を長く務め、現在は同出版グループの編集局長で来日講演したことも。彼女はむかしばなし絵本なども多く手がけているほか、小学校教科書の編集、さらには、こどもの読書の普及など幅広い活動をしています。




(出典)
Melike Günyüz(author), Reza Hemmatirad(illustration),
Ses Yarışması (Gakgukların Maceraları 1), İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print
Süslü Çıkolata (Gakgukların Maceraları 2) , İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print
Pamuk Karga (Gakgukların Maceraları 3) , İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print
Şarkıcı Gukki (Gakgukların Maceraları 4), İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print 
Ay Nereye Kayboldu? (Gakgukların Maceraları 5), İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print
Mavi Gaki, (Gakgukların Maceraları 6), İstanbul: Erdem Yayınları, 2005/2010 2nd print

*本稿での絵本ページ写真(前田個人のscanによる)の使用をご快諾くださった、メリケ・ギュンユズMelike Günyüz さんとレザー・ヘンマティーラードReza Hemmatirad さん、および、 エルデム出版 に心より感謝申し上げます。